TSMC熊本工場について、2つの対照的な記事がありましたのでご紹介します。
2021/12/28 DIAMONDより
ソニー・TSMC合弁が、日の丸半導体の再起を促す画期的な決断である理由
2021/12/7 JBpressより
「TSMC熊本工場」建設を喜ぶのが大間違いである理由米アリゾナ工場とは大違い、「日本のため」にならない熊本工場
この2つ、タイトルでもわかる通り、真逆のことを言っています。
おもしろいですよね。
TSMC新工場誘致の経緯【概要】
まず、今回の経緯を簡単に書いておきます。
- 世界最大の半導体メーカーである台湾のTSMCが、熊本に新工場を建設する。
- TSMC熊本工場誘致に際し、日本政府が補助金(4,000億円とも5,000億円とも言われる)を出資する。
- 熊本工場はソニーとの合弁であり、デンソーが参画するとの話も出ている。
- TSMCの新工場は、熊本で22~28nmプロセス/月産4.5万枚、アリゾナで5nmプロセス/月産2万枚。
- 日本、アメリカとも、TSMC新工場の誘致に躍起になっていた。
という感じです。
では2つのニュースを見比べてみたいと思います。
TSMCの新工場を誘致することについて
各ニュースのタイトル通り、誘致すること自体に対して賛否両論あるというところが一番の注目ポイントだと思います。
DIAMONDによる見解
これについて、DIAMONDでは「画期的な決断である」言っているわけです。
何が画期的かというと、
- 国際的なプロジェクトへの支援であること
- 古い技術に投資するという発想(意識の改革)
ということだと言います。
詳しく説明すると、
①国際的なプロジェクトへの支援であること
“日本のこれまでのハイテク産業支援は、主に日の丸半導体、日の丸液晶など、国内企業の弱った企業同士の再編、意地悪な言い方をすれば、弱者連合への支援であった。”
また、過去にソニーがサムスン電子と合弁事業を始めたときに経済産業省から批判を受けた時の話を引き合いに出し、「隔世の感がある」と評価しています。
つまり、過去の栄光に捕らわれず、未来志向で本当に良いと思われる案件について、支援をしていくという方向転換を感じたのだと思います。
②古い技術に投資するという発想(意識の改革)
これまでは、最新技術への投資が当たり前でした。
しかし、今回は10年前の技術への出資となります。
10年前の技術に出資するから、すでに減価償却が済んでいる競合他社と戦うことができるという論法です。
記事中でも「10年分の減価償却費を日本政府が肩代わりしたようなものである。」と言っています。
JBpressの見解
一方、JBpressの方は、アリゾナ工場と比較した上で、
「『TSMC熊本工場』建設を喜ぶのが大間違い」と断じているわけです。
その理由は以下の通りです。
- アリゾナの方は、「軍需としても、国内のファブレス企業のためにも最先端の5nmプロセス技術が欲しい」という狙いがあり、国の利害も一致する。(→だから国の税金を使う意味がある)
- 熊本の方は、世界の半導体不足に対応するための増産、つまり、TSMCの利益のためである。(→だから国の税金を使ってはいけない)
記事の最後の一文に集約されています。
「日本半導体は挽回不能であり、ここに税金を注ぎ込むのは無駄である。歴史的に、経産省、革新機構、政策銀が出てきた時点でアウト」
ニルの考え
結論から言うと、僕はTSMCの熊本工場建設とその政府の支援に賛成です。
僕が考えるメリットは次の通りです。
- 雇用創出(経済対策)
- 経済安全保障問題の解決(半導体の確保)
- 技術力の向上
ひとつずつご説明します。
雇用創出(経済対策)
TSMC熊本工場は、2000人規模の工場とのことで、単純に雇用の創出が期待されますし、それに伴って裾野も広がっていくでしょう。
日本は人口減少、少子高齢化で人手不足ではありますが、雇用が増えると給与水準も上がり、経済効果も高まると思います。
また、日本は相対的に人件費が下がっているので、優秀で安価な人材が獲得しやすく、ホントにお買い得だと思うんです。
特に半導体のようなデリケートなものづくりには、きめ細かい管理が必要ですから、日本人向けの業界だと思います。
経済安全保障問題の解決(半導体の確保)
コロナ禍で半導体(に限らずですが)不足の問題が起き、顕在化したリスクですね。
国内に生産拠点があると、リスクヘッジになります。
しかも、熊本工場は22~28nmのボリュームゾーンの生産拠点ですから、尚更良いですよね。
ソニーとデンソーが参画するということは、エレクトロニクスや自動車など、日本の基幹産業に供給可能になります。
技術力の向上
JBpressの記事の著者である湯之上氏は、「日本半導体は挽回不能」と言っていて、それは同感です。
しかし、氏は「日本の半導体産業は再興しない」から反対だと言っており、そこが引っ掛かります。
なぜ「日本の半導体産業は再興しない」と反対なのか。
他にメリットが沢山あるのに。。。
僕は、これからの日本は、生産技術と材料・素材技術で生き残れると考えています。
こちらの記事にも記載していますが、メーカーへの就職・転職を考えているのであれば、材料・素材系の業界がおすすめです。
技術職系の方には生産技術や工場のユーティリティ・ファシリティマネジメント系の職種がおすすめです。
失敗しないエンジニアの転職の手順【実体験を基に7STEPで解説します!】
この分野はまだまだ世界トップクラスであり、元気な企業も多いです。
半導体業界だけで見ても、材料や製造設備など、高い技術とシェアを誇っています。
ですから、国内に大きな生産拠点ができるというのはメリットになると思うのです。
そこが、日本の技術力の向上に繋がると思っています。
TSMC側としても、材料や設備調達費が抑えられ、低コストで生産が可能になるのではないでしょうか。
それに、10年前の技術でも一番のボリュームゾーンですし、最新技術の開発にも繋がる可能性もあるじゃないですか。
湯之上氏は、
「日本には半導体設計専門のファブレスが存在しない」
「28(22)nmより先の微細加工技術を自力で量産できるようにならなければならない」
だからダメだとも言っていますが、僕は可能ではないかと思います。
そのためにデンソーが入ってきたのではないかと。
僕は専門家ではないから楽観的に見過ぎているのかも知れません。
でも僕は日本企業の底力を信じています。
日本でもキーエンスに続くファブレス企業が育ってくる可能性もあり、いいことだと思います。
まとめ
全体としてDIAMONと同じような考えです。
メリットしかないと思います。
ただ、湯之上氏の気持ちもわからなくはないんです。
氏は国会でも参考人として意見陳述されています。
日本の半導体の凋落と伴にあった人生を送られてきたんですね。
だから「日本の半導体産業の復興」に拘っているのだろうと思いました。
国会での意見陳述はこちら
衆議院 2021年06月01日 科学技術特別委員会 #04 湯之上隆(参考人 微細加工研究所所長)
とても興味深い内容ですし、話も面白かったです。
ただ、記事としては、拘りのあまり勇み足になってしまったのかなという印象でした。
僕はTSMCの新工場に期待しています!
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